Interview with the Founder
ー駆け抜けてきたメビウスの30年ー
メガネが誰かの人生に彩りを与える。
そんな出会いの積み重ねが私たちの財産です。


アイウェアメビウス代表
山田香代子


メガネはファッションアイテムという発見
わたしが故郷の岐阜県岐阜市で最初のメガネ店を開いたのは1992年。メガネのことは元から好きでした。医療器具である一方で、かける人の個性を表現するファッションアイテムでもある。そこに大きな可能性を感じていました。ところが当初は、同じようなデザインにライセンシーでブランド名をつけたメガネを、少しでも安く売るという方法でしかお店を開けませんでした。とはいえ、そういう価格訴求型のお店は、どうしても資本の大きい企業の店舗に勝てません。人の顔はそれぞれに違うのだから、メガネも一人ひとりに合うものであるべき。デザインもカラーも、もっともっと違うものがあっていい……。かける人の体の一部、かけがえのない個性の一部になるようなメガネを、時間をかけて選べる店にしたい! そんなモヤモヤを抱えていた1996年、雑誌『モード・オプティーク』が創刊しました。そのメガネファッション誌を手にとったときの衝撃は、今でも忘れられません。メガネにもファッション性は求められていて、こうして美しいグラビアを飾るだけの価値がある。そのことを実感した私は、思い切って東京に出て、渋谷にお店を出すことを決めたのです。右も左もわからず、宮益坂に場所を借りて、なんとかお店を出しました。1997年のことです。
渋谷の小さな店舗で
七転八倒。
でも夢は大きかった
女一人、なんの伝手もなくいきなり渋谷に出店しようだなんて、今考えたらとてつもない飛躍です。もちろん最初は苦労はしましたが、夢だけは大きかった。お店の一角でメガネのオーダーメイドサービスを始めてくれた、今は亡き伝次郎の存在も強い推進力となりました。効率的にビジネスを回すことなどそっちのけ。ほかのメガネ店でやってないことをやりたい、チャレンジングで、ワクワクする「メガネのワンダーランド」になりたい……。私たちのどちらも、寝食も忘れて、その一心だけで走り続けました。お店で疲れてデスクに突っ伏して寝ていたら、お客さまのお一人から「寝ていたからまた来ます」と置き手紙されていたこともあるほど! 思えばメビウスは、そんな風に、最初から素敵なお客さま方に恵まれ、愛されてきたお店なのです。
新しいもの、
ほかにないものを
求め続ける30年
お店を開け続けるうちに、そんな風に優しく素晴らしいお客さまが少しずつ増えていきました。一方で、パソコンに写真を取り込んでメガネをかけたときのイメージをつくったり、私たちの店にはオーバースペックなほどのいい機械を導入したりと、精力的にオーダーメイドに取り組んだことは、雑誌やTVなどへのメディア露出にもつながりました。そうしてメビウスはなんとか順調に走り出し、1999年に、現在の公園通りのお店の場所へと移転します。
海外の展示会に積極的に出かけたり、その出張中に仕入れた情報を頼りに、さらに遠くのファクトリーまで出かけたりといったことを盛んに行うようになったのもこの頃。ドイツで大量のビンテージのフレームやアセテート生地を買いつけたのもとてもいい思い出です。あれほどの掘り出し物にはもうなかなか出会えない。ヨーロッパのビンテージフレームや生地に関しては、とてもいい時期を目にして多くを学ばせてもらった。今にしてそう思います。
世界各地から集まる、
人々の個性を引き出す
メガネ
現在「メビウス」と「クライン」には合わせて、6ケ国40ブランドから、個性的なメガネが揃います。どのブランドも、私たちは作り手のお顔を知っています。自分たちで会いに行き、どんな考えを持っているか、どんな場所でどんな風にしてつくられているかを知ったうえで、時間をかけて関係性を築いてきたブランドばかりだからです。
これらすべてのブランドにも共通しているのは、メガネとしての機能をきちんと備えていて、かつファッション性が高いこと。彼らが好きなファッション、送りたいライフスタイルと、つくるメガネとに筋が通っているのです。当然ながら、そういうメガネを手作業でつくるブランドは、大量生産には向きません。でも、私とメビウスがずっと求め続けているものは、まさにそんなメガネです。〝多くの人に似合うもの〟は実は誰にも似合わない。本当の意味でお一人お一人に似合うものは、それぞれに個性的なものだと、私たちは信じているからです。
お客さまと紡いだ、
数え切れない思い出
公園通りのお店はその後に改装も行い、気がつけば創業から30年。途方もない時間のようでいて、あっという間だったというのが実感です。でも積み上げられたカルテの量は正直です。これを眺めていると、お客さまたち、スタッフ、そして魅力的なメガネをつくる数々のブランドの人々と、本当に濃くて充実した時間を紡いできたのだと感じます。
創業30周年を記念したこの本にも、多くのお客さまたちのご協力をいただきました。この本には到底収録しきれなかったけれど、印象的なお客さまを挙げ始めたらキリがありません。
メガネを思い切って黄色いフレームに変えたことで明るい性格になったとおっしゃってくださった方。はじめはご夫婦で何度も何度も訪れてくださって、そのうちにご主人が病気を患い亡くなられて、その後にいらしたときに、ご主人がこれまでにつくられたメガネを自分の度数に入れ替えて使い続けたいとおっしゃった女性。スポーツカメラマンというハードな仕事に耐えうるメガネを求めて、同じフレームを一度に20個ほどオーダーなさる男性。海外の蚤の市で手に入れた古いフレームを持ち込まれて、これと同じものをつくってほしいとおっしゃった大学教授。〝サイズフィット〟と銘打って、体の小さな方から大きな方までフィットするセミオーダーのメガネをさかんにやっていた頃には、力士の方々がお店にいらして、お店じゅうに鬢づけ油の甘い香りが漂っていたこともあります。
メガネを通じて、
人生に寄り添う
今でも私たちメビウスの接客は長い方だと思いますが、これは社風。10年ほど前までは、お一人の接客が3時間ほどかかることが、ごく普通の光景でした。メガネはそれぞれの方の生活と切り離せないアイテムです。どんな職業か、どんなライフスタイルか、どんな時にかけようとしているのか……といった背景によって、フレーム選びはもちろん、処方箋から仕立てるレンズもまるで変わります。ですから、その方にふさわしいメガネを探し当てるためには、根堀り葉掘り、いろんなことを聞いていかなくてはならない。人生に寄り添うサービスともいえると思うのです。ともすれば煩雑に思う方もいらっしゃるのかもしれない私たちのそんなスタイルを受け入れ、それぞれの人生をメガネを通じて私たちと分かち合ってくださるお客さまたち。皆さまこそが、私たちメビウスにとって、かけがえのない財産です。
30年を迎えた節目の今年、メビウスは恵比寿に新たなショールームをかまえました。次の30年、またその次の30年を見据えて、これからも「メビウス」らしく、お客さまと一緒にお店をつくりあげていきたいと思います。


